むかーし、むかし、あるところにな。夜ふかしばかりしておるミノ吉という男の子がおった。
なかなか寝ないので、おかあさんは、こまっておった。
ある夜のことじゃ。ミノ吉は、お母さんにしかられて、しかたなく布団の中にもぐった。そして目をとじたら、めずらしくウトウトしはじめた。
どれくらいたったころのことじゃろうか……、
ミノ吉は、『ヒヒヒヒッー』という気味悪い声を聞いた。
薄暗い部屋の中に、白い幽霊がボオーッと立っておってな、ミノ吉をジーッとにらんでおった。足はなく、体は宙に浮いとったそうな。
白い幽霊は、突然真っ赤な口をガバッと開けての。
「はよう寝ん子は、食うぞーっ」と、しゃがれた声でミノ吉に言うたんじゃと。その口は耳までさけとったそうじゃ。
ミノ吉は、悲鳴を上げて、夢中で家を飛び出し、たき木小屋の後ろにかくれた。
ところがじゃ。幽霊は、壁をスーッとぬけての。
「隠れてもダメじゃ、ワシにはお見とうしじゃ」と、ミノ吉をドンドン追いかけてくるのじゃ………。
「助けてーッ」ミノ吉は必死で逃げ回った。
幽霊は、後ろから、スーッと飛ぶように追いかけてくる。
どれくらい走ったころか。ミノ吉はそばに大きな松の木があるのに気づいた。高さは、ゆうに十間はあるという松じゃった。
ミノ吉は、夢中でその松の木によじ登っての。二間あまり登ったところの大きな枝のところに身をかくし、じっと息をひそめた。
じゃが、すぐに、幽霊が松の下までやってきての。
なにやらブツブツ言うとったかと思うと、突然ガバッと顔を上げ、ミノ吉をにらみつけたんじゃ。
幽霊の顔は、なんと、目が三つもあっての。
にらみつけた目が気味悪うてのー。「引きずりおろして食ってやる」と、耳までさけた真っ赤な口をパクパク動かしたと。
「ヒーッ」ミノ吉は、必死に松の木を登りはじめた。
次の枝のところで息が切れそうになった。
下を見ると、幽霊は足がないのにスルスルと恐ろしい早さで登ってくるのじゃ。
『ヒッヒッヒッ、一段上がって休もうかい』
幽霊は、ミノ吉がかくれていた枝のところまで登ると一休みし、ミノ吉をにらんで、ペロリと長い舌で舌なめずりをした。
「ヒーッ」ミノ吉は、もう一段上の枝まで逃げた。
すると幽霊も、「もう一段上がって休もうかい」と言ってスルスルと次の枝のところまで登ってきた。
ミノ吉が一段登ると、幽霊もスルスルッと登ってくる。
「もう一段上がって休もうかい」
いくら登っても、不気味な声がすぐ下の枝のところで聞こえるのじゃ。
「もう一段上がって休もうかい」
「もう一段上がって休もうかい」、
ミノ吉の頭の中は幽霊の声でいっぱいになり、夢中で上へ上へと登っていった。
そして、ミノ吉は、とうとう松の木のてっぺんまで登ってしもうた…。
もう逃げ場がない…。
「もう一段上がって休もうかい」
幽霊は、もう目と鼻の先まで登ってきておる。
幽霊が大きな口を開け、スーッと白い手を伸ばしてきた。
「もうダメだ。助けて!」…………………。
ミノ吉は、悲鳴をあげて、高い高い松の木のてっぺんからピョーンと飛びおりた…、そしたら夢じゃったと!
ミノ吉は怖い怖い夢を見とったのじゃ。
夢から覚めて、ミノ吉は、オイオイと泣いての。おかあさんに「これからは、早く寝るよ」といったそうじゃ。
怖い夢を見たものじゃのー。
・保護者A