栗原にたいへん働きもののおじいさんとおばあさんがおった。
おじいさんたちは、毎日毎日、朝はやくから畑に出て、いっしょうけんめい働き、昼めしを食べてしばらく昼寝をし、また、畑に出て日がくれるまで、せっせと働いていた。
ある日のこと、いつものように昼寝をしていたときのことじゃった。
おじいさんは、うつらうつらしているうちに寝こんでしまい、不思議な夢を見たのじゃ。
おじいさんは、目が覚めると、「何と不思議な夢を見たぞ」と、おばあさんに話しはじめた。
『だれかの声が聞こえはじめての。よく耳をすますと、どうやらそれは江の川から聞こえているようなんじゃ。声はだんだん小さくなり、しまいには聞こえなくなったが、どうやら、わしを呼んでいるようすじゃった』
おじいさんは、おばあさんに夢の話をしたあと、むしょうに声のぬしが気になりだした。畑に出てはみたものの、気になって、仕事にせいが出ない。
「ばあさんや、気になってしようがないから、江の川にいってくるぞ。おばあさんは、ひと休みしとれ」
おじいさんは、そういうなり、家のおきを流れる江の川の方へ走りだした。
江の川のほとりまでくると、「たしか、あのあたりじゃったが……」と、さっき夢で見たあたりを見まわした。
「やや、あれはなんじゃ」、目の前の浅瀬に、ひとかかえもある大きな石がころがっている。
ここらの川原には小さな石ばかりで、その石はひときわ目立って見えたそうじゃ。おじいさんは、すぐさまそばにかけよった。
そして、近づいてビックリ。なんとその石には、お地蔵さまが刻まれていたのじゃ。
「不思議なことじゃ。わしを呼んでいたのは、このお地蔵さまじゃったのか。大切に祭ってあげなければなるまい」
おじいさんはお地蔵さまを抱えようとした。
そして、またビックリ。
なんと、砂にうもれていると思っていた足の部分がなかったのじゃ。
「あれれ、お地蔵さま、足はどうしたのじゃ」お地蔵さまが刻まれている石は、胴体のところで割れていた。
おじいさんは、足がなければ、お地蔵さまがお困りだろうと、まわりをいっしょうけんめいさがしたが、なかなか見つからない。
「お地蔵さま、すまねえ、がまんしてくれまいか」、おじいさんは、とうとうさがすのをあきらめて、お地蔵さまを背おって、わが家に帰った。
おじいさんは、このことをさっそくおばあさんに話した。
「へぇー。不思議なこともあるもんじゃのー。じいさんや、ほこらをつくってあげなされ。じゃが、足がなくてはかわいそうじゃのー」
おばあさんも、お地蔵さまの足がとても気になるようじゃった。
その夜のこと………、晩メシもすみ、ふたりはウトウトしはじめた。
そして、おじいさんは、また、夢を見たのじゃ。
夢の中で『わしの足はここにあるぞ!』という声を聞いた。おじいさんは、ハッと目をさまし、家を飛びだした。
家のそばにある丘に、こんもりと盛り上がったところがある。
「お地蔵さまの声は、たしかここらあたりから聞こえたぞ」
おじいさんは、そこへ行くとあたりを見まわした。
すると、どうじゃ。そこには、おおきな石が一つころがっており、お地蔵さまの足がきざみこんであったのじゃ。
「お地蔵さま、こんなところにおられたか」、おじいさんは大喜びで、これを家に持って帰った。
「おばあさん、見てみい。お地蔵さまの足があったぞ!」
おじいさんは、眠っているおばあさんを起こすと、さっそく昼に持って帰った石と合わせてみた。
お地蔵さまの胴体と足がピッタリと合った。
「お地蔵さま、よかったですのー」ふたりは自分のことのように喜んだ。
あくる日、おじいさんとおばあさんは、朝はやくから、お地蔵さまのほこらづくりにせいを出した。
そして、日の暮れるころには立派なほこらができあがり、お地蔵さまを祭った。
それからというもの、ふたりは、毎日毎日そのお地蔵さまに手を合わせて、一日の無事を感謝するようになった。
そののち、この不思議な出来事は村中に伝わり、栗原の人々は、そのお地蔵さまのそばを通るときは、必ず立ち止まって手を合わせるようになった。
村人の手を合わせる心はやがて人々の心を豊かにし、争いもなくなって、栗原は今までよりもズーッと平和な村になったということじゃ。
今も、このお地蔵さまは、栗原の宝物として、大切に祭られている。
・文章を考えた人 川村 理恵
●聞き取りの内容●
ふたつに割れたお地蔵さま
・聞いた人 川村 理恵
・教えてくれた人 おじいさん
ずっと昔のこと、ある家のおじいさんが、不思議な夢を見た。
だれかが家の沖を流れる江の川のほうで呼んでいる夢だった。
おじいさんが、江の川へ捜しに行ってみると、お地蔵さまが、刻まれている大きな石を見つけた。
しかし、このお地蔵さまは、半分に割れて足の方がなかった。
おじいさんは、お地蔵さまを背負って家に持って帰った。
そして休んでいると、また、「わしの足は、ここにあるぞ」という夢を見た。夢に見た場所に行ってみると、そこに前の石と同じくらいの石があり、お地蔵さまの足が刻まれていた。
おじいさんは、この二つの石をぴったり合わせ大切に祭った。
◇ ◇
このお地蔵さまは今も大切に祭られています。かつて、婚礼の時には、お地蔵さまを縁側に座らせる習わしがあったそうですが、このお地蔵さまは女性だといわれ、婚礼の時には、祝福してか、やきもちを焼いてか、ズッシリと重くなり、運ぶのに苦労したという話です。