Home > おおち昔ばなし > ぬすっとギツネの恩返し
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5 むかしむかし、栗原に、たいへん仲のいい、おじいさんとおばあさんがおった。
ふたりは、いっしょうけんめいお米や野菜をつくり、まずしいながらも幸せに暮らしておった。

ところが、いつのころからか、こまったことがおこりはじめた。
汗水たらしてつくったお米や野菜を、何者かがこっそりぬすんでしまうのじゃ。きょうも、畑が荒らされ、さといもが全部ぬすまれてしもうた。ふたりは、とほうにくれるのじゃった。

おじいさんたちが子供のころ、裏山の竹やぶの中にキツネが住んでおり、村中の作物を荒しまわっていたという。名前を『ぬすっとコンスケ』といった。たちの悪いキツネは何年も生きつづけるということを聞いたことがある。
「さてはぬすっとコンスケのしわざかな……」おじいさんは、荒らされた畑を見つめながら、「あのコンスケに目をつけられたのなら、しょうがない」と、あきらめ顔でつぶやいた。

ときは流れて、作物の収穫が終わり、秋祭りのころ。
畑はすっかり荒らされ、神さまに祭るものさえないありさまで、とうとう、祭りの日には、お祝いをすることができなかった。ふたりは毎日泣いて暮らしておった。

そんなある日のことじゃ。君谷の親戚から、たよりが届いた。
『明日は、うちの村の祭りじゃ。ごちそうをつくって待っているからきてくれ』ということじゃった。

ふたりは「悲しんでいてもしょうがない。行くとするか」と、親戚の家に行くことにした。

次の日、ふたりは、わずかにとれた野菜をおみやげに持ち、君谷に向けて出発した。野越え山越え、峠をいくつも越えて君谷の村じゃ。日が高くなるまでに親戚の家に着くように足を早めた。

峠を二つばかり越えたころのことじゃ。おじいさんがふと立ち止まり、うしろをふりかえった。
「おじいさん、どうしたのじゃ?」
「シー!おばあさんや、さっきからうしろのほうで、へんな物音がするんじゃ。わしらの後をつけているらしい」

ふたりは、耳をすました。確かにずっとうしろの木かげで「カサ!カサ!」と物音がする。
「おばあさん、ひょっとするとぬすっとコンスケかもしれないぞ。家からわしらをつけてきたらしい。おおかた、わしらが持っているおみやげを、ねらっているんじゃろうて。知らん顔をしてようすをみよう」

ふたりは、気づかないふりをして、歩きはじめた。
「カサ!カサ!」音は、だんだん大きくなってくる。
「おばあさんや、今じゃ!ワラジを直すふりをして、そっとうしろを見てみい」
おばあさんはしゃがみこみ、そっとうしろをぬすみ見た。
するとどうじゃ。ずっとむこうの木陰から、一匹の大きなキツネが、ジーッとこっちを見ておる。
「おじいさん、おった、おった。キツネじゃ!大きなキツネじゃ!」
「おばあさん、シッポを見てみい。ぬすっとコンスケならシッポがまっ白なはずじゃ」
「おじいさん、あれはコンスケじゃ!シッポがまっ白じゃぞッ」
「そうか、畑を荒らしたのは、やっぱりコンスケだったのじゃ。うんとこらしめてやらなければなるまい」

正体を確かめると、おじいさんたちは、また、知らん顔をして歩きはじめた。

そしておじいさんは、コンスケに聞こえるように、わざと大きな声で言った。
「こっまたのー。畑を荒らされて、こんなおみやげしか持って行くことができなんだ。親戚のおじいさんは、帰りには、かならず、たくさんのおみやげを持たしてくれるからのー。なんだか心苦しいのぉー」

それを聞いてコンスケは、『粗末なおみやげをねらうより、帰りのおみやげをいただいたほうがいいぞッ』と考えたらしい。それっきり「カサ、カサ」という物音は聞こえなくなった。
「おばあさんや、どうやらコンスケは、帰りにみやげものを狙うことにしたようじゃ。ぬかるまいよ」

そうこう話しているうちに、君谷の親戚の家に着いた。
「遠くからようきたのー」親戚のおじいさんは、たくさんのごちそうを出し、ふたりをふるまってくれた。

しばらくして、おじいさんは、親戚のおじいさんに、コンスケのことを話した。
「…………そこで相談なんじゃが、大きい袋に、くさったものを入れておいてくれまいか。それをおみやげに見せかけてコンスケをこらしめてやりたいんじゃ」「いいとも、いいとも。おやすいごようじゃ」

日は傾き、そろそろおいとまするときがきた。
ふたりはお礼を言い、おじいさんがくさったものがいっぱい入った大きな袋、おばあさんが本物のおみやげが入った小さな袋を背おい、栗原のわが家に向かって出発した。

日は落ちて、二つ目の峠にさしかかったころのこと。さっそく「カサカサ」と音がしはじめた。
コンスケが、また、つけはじめたのじゃ。

おじいさんたちは、わざと大きな声で話しはじめた。
「おばあさんや、たくさんおみやげをもろうたのー。わしが持っている大きな袋には、たーんとおみやげが入っとる」「ほんに、ほんに。たくさんもろうたのー」

案の定、コンスケは、おじいさんが背おっている大きな袋を狙いはじめたらしい。物音は、だんだん、おじいさんに近づいてくる。

六つ目の峠を越えたとき……、突然、草むらから大きな黒い影が、おじいさんめがけて飛び出してきた。
「きた!」おじいさんが身がまえたとたん、背中がグーンと重くなり、大きな袋は奪いとられてしまった。

アッという間の出来事じゃった。ふたりは、『袋の中の腐った食べ物を、早く食べてくれるように』と祈った。
きっと、はら痛をおこして正体を現わすはずじゃ。
「ガツガツ!」ちかくで食べている音が聞こえた。

ひとときもたったころじゃ。草むらで「ウーン」という苦しそうなうなり声が聞こえはじめた。
「腹が痛くなりはじめたようじゃ。もうすぐ飛び出してくるぞ」

身がまえたとたん、コンスケが、ふたりの前に飛び出してきた。痛くて動けないのか、うずくまっている。
「よくもこまらしてくれた。おもいしれ!」、ふたりは棒をふり上げた。

すると、コンスケは「おなかが痛くて死にそうです。決して悪さはしません。助けてください」と泣きはじめた。
「おばあさんや、こんなにあやまっておる。なんだかかわいそうじゃのー」「そうじゃな。もう悪さはしないということじゃから、ゆるしてやるか」、ふたりは、コンスケをゆるしてやることにしたのじゃ。

おばあさんは、道ばたに生えている薬草をすりつぶしてコンスケのおなかに塗り、すこし飲ませてやった。
「どうじゃ。楽になったか」
「はい、おかげで楽になりました。ご恩はけっして忘れません」コンスケは、ふたりに深々と頭を下げた。

そして、なんどもなんども振り返りながら、草むらの中へと消えていった。
「いいことをしてやったのー。じゃが、また悪さをしやせんじゃろうか?」おばあさんは、心配げじゃった。

あたりがすっかり暗くなったころ、やっと栗原のわが家についた。

そしてふたりは、本物のおみやげを仏だんにそなえると、長旅の疲れがドッと出たのか、すぐ横になり、ぐっすり眠りこんでしまった。

明け方のことじゃった。ふたりは、『ガタン』という大きな物音で目が覚めた。
「まさか、コンスケがまた悪さを……」ふたりはあたりを見まわした。
「おじいさん、仏だんを見てみなされ。何か置いてあるぞ!」仏だんを見ると、おみやげものの横に、おおきな包みが置いてある。ふたりはさっそく、包みを開けてみた。
「やや、これは!」、中のものを見て、びっくりぎょうてん。
中には、野菜やお米、くだものの種が、どっさり入っていた。コンスケが恩返しをしたのじゃ。

ふたりは大喜びで、そとに飛び出すと、「コンスケ!ありがとう」とさけんだ。
すると、草かげからコンスケが、うれしそうに顔を出し、「コーン」と一声なくと、サッと身をひるがえし、むこうの峠へと消えていった。

つぎの年、コンスケがくれた種をまくと、秋には食べ物がたくさんでき、りっぱな祭りをし、君谷の親戚のおじいさんもよぶことができた。

ふたりの暮らしむきは、だんだん豊かになっていったということじゃ。

その後、おじいさんたちはもちろん、コンスケの姿を見た者は、だれもいなかったという……。

・文章を考えた人 増田 由美子

●聞き取りの内容●
ぬすっとギツネ

・聞いた人    増田 由美子
・教えてくれた人 おばあさん

 昔、物を盗んでは人々を困らせていた大きな古ギツネがいた。
 ある家のおじいさんが、君谷の親戚のお祭りに呼ばれ、親戚でたくさんのご馳走をもらって、その帰り道、あたりでガサガサ音がしはじめた。
 長い道中ずっと足音だけがおじいさんをつけている。
 化物かと気味悪がっていると、おじいさんの背負っているごちそうめがけて真黒いものが、飛びかかってきた。
 おおきな古ギツネだった。
「コラッ!お前に御馳走をとられてたまるか」と、叫んだがアッという間に背中の荷物はとられてしまった。
 ところが、古ギツネは、盗んだごちそうをいっぺんに食べてしまい、おなかが痛くなってしまった。
 おじいさんは、痛くて苦しんでいる古ギツネを見つけ、やさしく手当をし、助けてやった。
 その後、古ギツネは、決して人の物を盗まなくなった。

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