むかしむかしのこと。一人の旅人が、栗原の地まできたとき、すっかり日がくれてしまい、あたりはまっ暗になってしまいました。
近くに家はなく、旅人は、見知らぬ土地でとほうにくれました。心細くてたまりません。
困った旅人が、オロオロしていると、どこからか「ザクッー!ザクッ!」と、かすかな音が聞こえてきました。
音のするほうをジーッと見ると、ずっと向こうに明かりが見えました。どうやら、ちょうちんの明かりのようです。
「おッ、だれかいるらしい。助かった。地獄に仏とはこのことじゃ。一晩泊めてもらおう!」
旅人は、大喜びで、明かりのほうにかけ出しました。
明かりに近づくにつれて、ザクッ、ザクッという音は、だんだん大きくなってきます。
「何の音だろう」旅人は不思議に思いながらも、明かりのほうにいっしょうけんめい走りました。
あたりはまっ暗でなにも見えません。何度もころびながら、やっとのことでそこにたどりつきました。
旅人は、道のすぐ下を流れている小川を見ました。
川辺にちょうちんがおいてあります。川の中にだれかが入っているようです。
しゃがみこんで一生懸命なにかを洗っています。暗くて顔は見えませんが、ちょうちんの明かりに照らし出された後ろ姿は、年老いたおばあさんのようです。
そして、「ザクッ、ザクッ」という音は、どうやら、あずきをといでいる音のようです。
「モシモシ、おばあさん」、旅人は、さっそく声をかけてみましたが、おばあさんは、いっしょうけんめいあずきを洗っているのか、気づかないようすでした。
「あれ、耳がとおいのかな」と思い、旅人はさらに大きな声でよびました。
「モシモシ!おばあさん!」
今度は、聞こえたようです。
おばあさんは、むこう向きに音もなくスーッと立ち上がり、ちょうちんで顔をかざして、
「ワシに、なにか用かえー」と、ゆっくりとふりむきました。
おばあさんの顔がまともに見えました。
「ギャーッ!デッ、デッ、デッ、出たー。オバケ!」
なんと、旅人が見たおばあさんの顔は、口は耳までさけて、目はつり上がり、おまけに顔中がただれ、鼻はつぶれてしまってありませんでした。髪はのばしほうだいのボサボサです。
それはそれは、とてもこの世のものとは思えないほどの気味わるさだったそうです。
そして、おばあさんは、突然大きな声で、
『ヒヒヒヒヒッ』と、くるったように笑い出しました。
その声は、まるで、つぶれたノドからしぼり出したような声で、聞いただけで頭が狂うほどだったといいます。
「助けて-ッ!」、旅人は、怖くて腰をぬかし、ヘナヘナとくずれるように、その場で気を失ってしまいました。
夜明け前……。旅人はやっと気がつきました。まだ、体がブルブルふるえています。
ハッとわれに帰ると、おばあさんがいたほうを見ないようにして、あたふたと逃げ出しました。
むこうのほうで村人たちが朝仕事をしているのが見えると、旅人はやっと安心し、その場にへたりこんでしまいました。
「アー、怖いめにあった」
「どうなされた」、村人たちは、旅人のあわてようにビックリしてかけよってきました。
旅人は、村人たちに昨夜の出来事を話しました。
「ははー、お前さんが見たのは、あずきとぎばあさんじゃ。この村の者は見たことはないが、なんでも、旅人をおどろかせてたのしむ化け物のようじゃ」……、村人は旅人に教えてやりました。
旅人は、それを聞いてまた背すじがゾーッとし、ろくに休みもせず、逃げるようにして立ち去って行きました。
この出来事があって以来、村人たちは、子供たちが夜おそくまで遊んでいると、「コラッ、おそくまで遊んでいると、あずきとぎばあさんが出るゾッ」と言い聞かせるようになりました。
栗原の子供たちは、この小川のほとりを、暗くなってから通るのが怖くてたまらず、夕方になるときちんと家に帰り、お父さんやお母さんの手伝いをするようになったということです。
その後、旅人が見たというあずきとぎばあさんを見たものは一人もいませんでした。
・文章を考えた人 安田 英樹
●聞き取りの内容●
あずきとぎばあさん
・聞いた人 増田 由美子
・教えてくれた人 おじいさん
ある日の夜おそく、近くの小川で『ザク!ザク!』妙な音がする。気味悪く、怖い顔をした見知らぬお婆さんが、あずきをといでいたといううわさが立った。
子供たちは、夜おそくその小川のほとりを通るのが気味悪く、早く家に帰るようになった。
また、「泣いていると、あずきとぎばあさんがでるぞ」と、子供たちに言うとすぐ泣きやんで、よい子になった。